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AZUKARI

海岸の松に学ぶ

海岸に自生し吹き流しという樹形のもとになった黒松

吹き流しの原型となった海岸性の樹種、黒松 / 写真: Azukari

日本の海岸の砂丘を歩くと、松は穏やかな谷間の松とは違う立ち姿をしています。幹は傾き、時にはかなり大きく傾き、しかも同じ方向に揃って傾き、枝はまるで誰かの手で梳かれたように片側へなびいています。誰かが曲げたわけではありません。曲げたのは風です。同じ方向から吹き続ける同じ風が、どの木よりも長い年月、そこに吹き続けてきたのです。

盆栽の吹き流しという樹形は、作家の発明ではありません。何百年もの潮風が松の幹に書き込んできたものを、鉢の中に写し取ったものです。

潮風に傾いた幹

この姿をつくった主役は黒松(くろまつ、"Japanese black pine"、学名 Pinus thunbergii)です。本州・四国・九州の海岸に自生し、他の針葉樹に比べて潮風と塩分への耐性が際立って強い樹種で、だからこそ繊細な樹種ではなく黒松が、日本の海岸線の姿そのものを決めることになりました。開けた海のそばに根を張った松は、生涯にわたって一方向から風を受け続けます。全方位で風と均等に戦うのではなく、風上側では成長を譲り、風下側で枝を厚くする。その積み重ねの末に、幹は数十年かけて一方向への傾きとして定着し、最も厳しい風を受け続けた側の枝は次第に減っていきます。この木は傷んでいるのではありません。風によって形づくられているのです。この違いを見分けられるようになることが、海岸の松を学ぶ最初の一歩になります。

吹き流し 一つのルールを守る樹形

この傾いた姿には、盆栽の型として名前がついています。吹き流し(ふきながし、"windswept"、字義通りには「吹かれて流れる」で、祭りで揚げる長い旗の名でもあります)です。直幹や模様木と並ぶ、盆栽の樹形の語彙の中でも難度の高いものの一つとされ、その理由は守るべきルールがたった一つしかなく、それを例外なく貫くところにあります。幹のどちら側から出た枝であっても、すべて同じ方向を向くように仕立てられます。幹の傾きは垂直から60度から80度ほどになることも珍しくありませんが、傾いているだけでは吹き流しにはなりません。模様木も傾きを持つ樹形だからです。吹き流しを吹き流したらしめているのは、本来なら上や外に伸びようとする「逆側」の枝までも針金で下げ、他の枝と同じ流れに揃えるところにあります。そうして初めて、木全体が一つの動きとして読めるようになります。これは盆栽の中でも説得力を持って仕立てるのが難しい樹形の一つとされ、それゆえに完成度の高いものにはなかなか出会えません。

風と戦うために植えられ、いまは美しさで知られる松原

海岸のこの姿は、すべての場所で偶然に生まれたわけでもありません。日本を代表する松原のいくつかは、庭として植えられたのではなく、大名が防風のために植えさせたことから始まっています。17世紀初め、唐津藩の大名・寺沢広高は、干拓事業の一環として、佐賀県唐津湾の砂丘に沿って松を植えさせ、風と飛砂を防ぎました。その結果生まれた虹の松原は、いまも海岸沿いにおよそ5キロメートル続き、およそ100万本に近い松があると伝えられています。静岡県の海岸にある三保の松原も同じような成り立ちの松原です。富士山を望む7キロメートルの松林と白砂の海岸で、1922年に名勝に指定され、2013年には富士山の文化遺産の構成資産としてユネスコ世界遺産に登録されました。どちらの松原も、はじまりは海岸を暮らせる土地に変えるための実用的なインフラでした。それがいまでは、美しい景観として訪れる人を集めています。この流れは、木自身が計画したものではなく、植えた人々のすべてが見通していたものでもありません。世代を超えて松に吹き続けた風だけが、この仕事を仕上げたのです。

厳しさが美をつくる

ここが、盆栽作家が最も重く受け止める部分です。海岸の松の美しさは、その木が耐えてきたことと切り離せません。風を避けられる谷間で育った松は、吹き流しのような姿にはなりません。そうなる理由がないからです。傾き、片側に偏った枝ぶり、風に梳かれてまばらになった葉のすべてが、木自身の意志とは無関係に、何年もかけて木部に刻まれた抵抗の記録です。鉢の中で吹き流しを仕立てる作家は、木を「風に痛めつけられたように見せて」装飾しているのではありません。本物の厳しさが幹に何をもたらすのかを枝の一本一本まで見極め、その論理に忠実な形をつくっているのです。だからこそ、この樹形はごまかしが利きにくく、誤りやすくもあります。実際の風上の木でその枝が生えているはずのない位置を無視して下げた針金は、不自然に映ります。海岸の松自身の理屈に沿った針金だけが、真実味を持って映るのです。

海岸を読み、鉢の中で仕事をする

これは写真だけでは学べません。だからこそ、吹き流しを本気で仕立てる作家は、針金を掛ける前に、実際の海岸線を歩くことを大切にします。三保の松原、唐津湾、あるいはいまも風が仕事を続けている現役の防風林(ぼうふうりん、"windbreak forest")。そこで持ち帰るのは、決まった型ではなく、いくつもの観察です。傾きがどこまでなら自然に見え、どこから折れて見えてしまうのか。風下側であっても、海岸の松がなお枝を残している場所はどこか。樹冠は消えてしまうのではなく、どのようにまばらになっていくのか。それらの観察が、その後、作家が海岸を離れてからも、季節ごとに吹き流しを育てる際の基準であり続けます。

結び

盆栽の作家は、吹き流しという形をゼロから発明する必要はありません。その形はすでに、どの盆栽園よりも長く同じ風を受け続けてきた海岸の松の中に、ゆっくりと書き込まれています。作家の仕事は発明というより翻訳に近く、自然がすでに厳しさの中で作り上げたものを読み取り、同じ気候を宿すに足る、鉢に収まる一本をつくることです。Azukariは、この同じ姿勢を、日本で木に向き合う作家たちの手の中に保ち続けています。木の形は季節ごとに、それが最初に読み取られた海岸や山と照らし合わせて確かめられ続けます。持ち主がどこに暮らしていても、すべての吹き流しは静かに、その同じ源に向き合い続けているのです。

木の形の見方や読み方については、「樹形という設計図」「自然が最高の教科書」「懸崖という挑戦」もあわせてお読みください。

参考リンク

  1. Bonsai Society of Greater Cincinnati「Windswept "Fukinagashi"」 — 幹の傾きがおよそ60〜80度であること、すべての枝を一方向に揃えるルール、この樹形の難度について。
  2. Bonsai Empire「Bonsai Styles」 — 吹き流しの樹形が、絶えず風に吹かれ続けたかのように幹と枝を一方向に仕立てるものであるという説明。
  3. Wikipedia「Pinus thunbergii」 — 九州・四国・本州の海岸沿いを自生地とすること、塩分や大気汚染への耐性について。
  4. Wikipedia「Miho no Matsubara」 — 三保の松原が7キロメートルにおよぶ松林であること、1922年の名勝指定、2013年の富士山の文化遺産としてのユネスコ世界遺産登録について。
  5. Wikipedia「Nijinomatsubara」 — 虹の松原が17世紀初めに大名・寺沢広高によって防風・防砂のために植えられたこと、全長およそ5キロメートルであること、およそ100万本に近い黒松があると伝えられていることについて。
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