
黒松(くろまつ、kuromatsu、学名 Pinus thunbergii)は、木に「力強さ」を求めるとき、盆栽の作家がまず手に取る松です。自生地は九州・四国・本州の、潮風にさらされる厳しい海岸線。たいていの針葉樹なら音を上げる風と痩せた土に耐えて育ちます。庭木として扱うには手強いその性質――太い樹皮、硬い葉、繊細さを寄せつけない佇まい――こそが、盆栽の作家が何十年もかけてあえて育て上げようとするものです。
黒松が育てられる理由はただひとつ、力強さという感覚を、樹皮に、葉に、そして盆栽の中での評価そのものに宿しているからです。
「男松」と呼ばれる木
日本の盆栽界では古くから、黒松と赤松(あかまつ、akamatsu、学名 Pinus densiflora)が対で語られてきました。その呼び方は迷いがありません。黒松は男松(おとこまつ、otoko-matsu)、赤松は女松(おんなまつ、onna-matsu)です。この区別は、ほぼ樹皮と佇まいの違いに由来します。赤松の樹皮は年を経ても比較的薄く、赤みを帯び、剥がれやすいままで、木全体の輪郭も細く柔らかく映ります。対して黒松の樹皮は灰色から黒へと変わり、厚く、深く割れた鱗片状に発達し、木全体に鈍く重い存在感を与えます。日本の盆栽の文献がこれを「男性的」と評してきたのも無理はありません。これは作家が外から仕込む技術の結果ではなく、時間と我慢によって引き出される、その樹種がもともと持っている性質に近いものです。赤松については別の記事で扱っています。
曲げることを拒む葉
二つ目の特徴も、同じくらい雄弁です。黒松の葉は二本一組で生え、濃い緑で先が鋭く、硬く、長さはおよそ7〜12センチとされます。五本一組で柔らかい五葉松(ごようまつ、goyōmatsu)の葉より長く硬く、赤松の細い一対よりも長いのが特徴です。五葉松については別の記事で詳しく取り上げています。放っておけば、成木の黒松の葉は盆栽としての姿のバランスを崩してしまうため、作家は毎年初夏に芽切り(めきり、mekiri)という作業を行います。6月から7月にかけて春に伸びた芽を切り、伸びる期間の短い二番芽を出させることで、秋までに短い葉へと仕上げるのです。黒松は赤松よりもさらに短い葉を求められるため、芽切りの時期は赤松より遅く、木の勢いが二番芽を出す負担に耐えられると判断されてから行われます。長く伸びたがる葉との、毎年の駆け引きです。同じ樹種でも一本ごとに葉の質は変わりますが、長く硬い葉へと向かう黒松という樹種そのものの傾向は、どれだけ選抜を重ねても完全には消えません。
記録を刻む樹皮
黒松に年月が表れるのは、何より樹皮です。幹が何十年もかけて太くなるにつれ、表面は硬い鱗片状に割れていきます。日本の盆栽の作り手は、その割れ方をいくつかの型に呼び分けてきました。板が細かく六角形に近い形で割れる亀甲(きっこう、kikkō)性、より不規則で岩のような岩石性、そして単純に粗く割れる荒皮性です。若く勢いよく育てられた黒松には、こうした表情はまだありません。樹皮はむしろ滑らかな灰色の肌に近い状態です。亀甲状に割れた幹は、無理に作り出せるものではなく、その木が近道をせず、長い年月を作家の辛抱強い手入れのもとで鉢の中で過ごしてきたことを示す、もっとも分かりやすい証のひとつです。樹皮が盆栽の樹齢をどう物語るかについては、より広く別の記事で書いています。黒松に限って言えば、この亀甲の樹皮は、付随的な特徴ではなく、木を定義する特徴のひとつとして読まれます。
盆栽が中心に据えてきた松
針葉樹の中で、黒松は五葉松と並んで松柏(しょうはく、shōhaku、長らく盆栽の古典的な中心とされてきた松と檜の系統)の頂点に位置づけられます。英語圏の盆栽文献では、誇張とは言いがたい調子で「盆栽の王」と呼ばれることさえあります。五葉松が洗練さで評価されるのに対し、黒松は大胆さで評価される木です。太い幹、角ばった動き、そして部屋の反対側からでも力強さが伝わる樹皮と葉。五葉松との評価の比較についてはまた別の話ですが、松柏という系統そのものの中では、黒松はその代表的な樹種として一貫して名前が挙がります(この点は別の記事でも触れています)。
その評価は、盆栽の棚の上だけにとどまりません。静岡・三保の松原では、黒松が植えられた約5キロメートルの海岸線が、富士山の世界文化遺産の構成資産の一部となっており、その松林は何百年にもわたって絵画に描かれてきた富士山の景観を縁取っています。そこにある二代目「羽衣の松」――天女の羽衣が松の枝に掛けられていたという能の伝説にちなむ木――は、推定樹齢およそ650年と伝わります。それは、盆栽の棚の上で数センチの高さに仕立てられている木と、同じ樹種であり、しばしばよく似た姿でもあります。
自らを証明し続けることを求められる松
黒松の力強さは、どれも一朝一夕に手に入るものではありません。古さを物語る樹皮は、我慢強く抑制された何十年もの成長を経て初めて亀甲状に割れます。洗練さを物語る短い葉は、毎年6月に繰り返される、いつ切り戻すべきか、いつ木にもう一度伸びる力を求めるべきかという、作家の判断の積み重ねの結果です。日本では、作家がその判断を季節ごとに下し続けています。いつ芽切りをするか、いつ手を控えるか、いつ幹が次の亀甲の樹皮を得るにふさわしい状態になったか。
Azukariは、その同じリズムの中に身を置く仕組みです。木は日本で作家の手のもとに育ち続け、こうした樹皮と葉を一年また一年と重ねていきます。持ち主は、その途切れない記録の一区間に加わります。
参考リンク
- Wikipedia(英語版)— Pinus thunbergii — 自生地、葉の長さと一組あたりの本数、若木の灰色で滑らかな樹皮が加齢とともに黒く鱗片状に発達する過程についての種の基礎情報。
- Bonsai Mirai — Japanese Black Pine Bonsai Guide — 「盆栽の王」と評される黒松の評価、太い幹と男性的な仕立て、一年に二度芽吹く生育特性について。
- 盆栽妙 —「黒松の育て方」 — 五葉松に比べて黒松の葉が長く剛直であること、五葉松と並ぶ「男らしい」盆栽としての位置づけについて。
- 盆栽.com —「盆栽育て方 黒松は幹肌がポイント」 — 樹齢を重ねた黒松の幹に見られる亀甲性・岩石性・荒皮性という樹皮の分類について。
- 盆栽Q —「【短葉法】黒松と赤松の短い葉を作る!芽切りを徹底解説」 — 芽切り(短葉法)の目的、6〜7月という時期、黒松が赤松より遅く芽切りされ、より短い葉に仕上げられる理由について。
- Wikipedia(日本語版)— 三保の松原 — 富士山の世界文化遺産の構成資産である三保の松原の黒松と、推定樹齢およそ650年とされる二代目「羽衣の松」について。