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イチイという盆栽

古い舎利幹に濃い緑の葉を茂らせたイチイの盆栽

幹の広い範囲に古い舎利(枯れ込んだ幹肌)を見せながら、濃い緑の葉を茂らせるイチイの盆栽。Photo by APK, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons — Source

満開の芽を吹く五葉松や、鎧のような樹皮をまとう黒松の隣にイチイを置いても、目はまずそちらには向きません。葉はどの季節も変わらず、平たく濃い緑のまま。幹の太りもゆっくりで、目立った動きがありません。それでも、何年もイチイを育ててきた人ほど、手放そうとはしません。ほかの松柏が嫌う日陰にも耐え、松なら枯れてしまうような寒さにも動じず、そして年に一度、松柏の中ではめずらしい色を静かに見せるからです。

イチイは、盆栽の中でもっとも静かな松柏です。派手さよりも、一年を通して湛え続ける濃く落ち着いた緑と、その名に刻まれた意外な歴史とで選ばれる木です。

濃い緑と、差し色の赤

イチイ(一位、Taxus cuspidata)の葉のつき方は、松とは違います。松の葉が二本や五本の束になって生えるのに対し、イチイの葉は平たく線状で、枝の左右に二列に整然と並び、松のように開いた印象ではなく、密で毛足の長い毛皮のような輪郭を作ります。色もほとんど変わらず、冬にも黄ばんだり茶色みを帯びたりしにくい、艶のない濃緑を保ちます。

その安定した色合いが、秋になると崩れます。イチイは雌雄異株で、雌木には小さな盃状の構造「仮種皮(かしゅひ)」が実り、松かさとはまったく違う、艶やかな赤い実のような姿を見せます。中には種子が一粒収まっています。針葉樹でありながら果実のように見えるものをつけるのは珍しく、その赤が自らの濃い緑の葉と対をなす様子は、松にはない鮮やかさです。ここで一つ、注意も必要です。イチイは葉も樹皮も、とりわけ実の中の種子も、タキシンというアルカロイドを含み有毒です。無毒なのは、赤い果肉の部分だけ。子どもやペットのそばで育てる場合は、この違いを踏まえた扱いが求められます。

北国でこそ強い

イチイは北海道から本州、四国、九州まで、さらに朝鮮半島、中国東北部、ロシア極東の南東端(アムール川流域、樺太、千島列島)まで自生しています。分布そのものは日本全国に及びますが、もっとも太く自然な姿に育つのは、寒く、しばしば山地の厳しい環境です。北海道では古くから「オンコ」という地方名で呼ばれ、アイヌ語では「ラルマニ」の名で知られてきました。地植えであれば、松の多くが枯れてしまうような寒さにも耐え、栽培資料ではアメリカの耐寒区分でゾーン4、およそ氷点下34度前後まで耐えるとされています。

ただし、浅い鉢の中のイチイは、地植えと同じようにはいきません。土に囲まれた地植えの根と違い、鉢の根は寒さの影響を直接受けやすいため、盆栽としてのイチイは、種としての耐寒性がどれほど高くても、氷点下10度を大きく下回るころには防寒が必要になります。日陰にも比較的強い数少ない松柏の一つでもあり、松では避けたくなるような日当たりの悪い置き場でも育てられる木です。

位を授かった名前

「イチイ」という名前は、木そのものの特徴を表す言葉ではありません。位を表す称号です。日本の律令官位で最高位にあたる「正一位(しょういちい)」にちなみ、朝廷の官人が持つ儀式用の板「笏(しゃく)」は、伝統的にこの木の淡く緻密な材から作られてきました。岐阜県公式サイトの県のシンボル紹介によれば、この木で笏を作って天皇に献上したところ、正一位という位を授かり、それ以来「イチイ」と呼ばれるようになったと伝えられています。

この伝承には、はっきりとした土地があります。岐阜県高山市飛騨地域にある標高1529メートルの位山(くらいやま)です。その山腹には、古くからのイチイの自生林が残っています。環境省の巨樹調査は、位山の一本を樹高およそ18メートル、幹周3メートル余り、推定樹齢千年以上の巨木として記録しており、平治元年(1159年)にはすでに位山のイチイで作った笏が朝廷に献上された記録が残り、その慣わしは昭和・平成・令和の即位の儀式まで続いてきたと伝えられています。岐阜県はこの経緯から、イチイを県木に定めています。また、鳥取県の船通山(せんつうざん)にも、推定樹齢およそ2000年という別のイチイの巨木「船通山の一位」が伝わっており、樹齢という価値を語るうえで、この樹種がもともと得意としてきたことを物語っています。

松柏の中の渋い選択

盆栽の分類では、イチイは「松柏(しょうはく)」という大きな括りに含まれます。文字どおりには「松と柏」ですが、実際には松・真柏・杜松・エゾマツ・檜など常緑針葉樹全体を指す言葉で、花や実を愛でる「雑木」と対をなす言葉として使われます。同じ松柏の中でも、五葉松の洗練された芽や黒松の風格ある樹皮が、まず目を引くのに対し、イチイの役割は少し違います。箒立ちを除くほぼすべての樹形に向き、成長も遅いため、毎年大きく姿を変えるのではなく、辛抱強く最小限の手を入れながら育てる木です。盆栽の樹種の中では、主役というより脇役に近い存在。華やかな松柏の間で、目を静かに休ませる場所を与える木だと言えます。

結び

イチイは、初めて見る人の目を最初に引く木ではありません。松なら避けるような日陰でも、松なら枯れてしまう寒さの中でも、ただ育てられ続けることを求める木です。濃い葉と、時おり色づく赤い実が、誰かに見せつけるためではなく、ただ季節を刻むためにそこにあります。それは、持ち主に静かな辛抱を求めることであり、日々の世話を担う手に、一定の信頼を置くことでもあります。Azukariが形にしているのは、まさにこの関係です。日本の作家が、こうした静かな松柏の必要とするものを理解したうえで手入れを続け、その記録は季節ごとに、木の長く目立たない時間の一区間を引き受けた持ち主のもとへ届けられます。

参考リンク

  1. 岐阜県公式ホームページ「岐阜県のシンボル」 — 岐阜県の県木としてのイチイの紹介と、笏・正一位に由来する名前の伝承。
  2. 環境省 巨樹・巨木林フォローアップ調査「位山のイチイ」 — 位山のイチイの推定樹齢・幹周などの記録、平治元年(1159年)の笏献上の記録、現代の即位儀式まで続く伝統についての紹介。
  3. The Gymnosperm Database「Taxus cuspidata」 — 自生地の分布、葉の特徴、日本における伝統的な用途についての記述。
  4. Wikipedia「Taxus cuspidata」 — 葉・樹皮・種子の毒性と、果肉部分が無毒であることの区別、「オンコ」「ラルマニ」という呼び名、鳥取県・船通山の推定樹齢2000年の巨木についての記述。
  5. Bonsai4me「Taxus / Yew Bonsai」 — 日陰への耐性、鉢植え個体の耐寒性、適した樹形についての栽培情報。
  6. The Japan Foundation, Wochi Kochi「The Joys of Viewing Bonsai in Autumn」 — 松・真柏・エゾマツ・檜とともにイチイ(yew)を含む「松柏」という分類についての説明。
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