
Photo by Carodejnictvionline, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons — 出典
花物盆栽(はなものぼんさい)や実物盆栽(みものぼんさい)が咲かない・実らない原因は、たいてい次の四つのどれかに絞られます。剪定の時期を誤って来年の花芽ごと切ってしまった、花芽を葉芽と見間違えて切ってしまった、肥料と日照の設計が花や実に向いていなかった、あるいは今年の答えはすでに一年前に決まっていて、待つしかない、のいずれかです。
剪定の時期を誤ることがもっとも多い原因
花物・実物の多くは、この春に咲く花をこの春の作業で決めるわけではありません。長寿梅(ちょうじゅばい、木瓜=ボケの仲間)や海棠(カイドウ)、山査子(サンザシ)などは、前年に伸びた短い枝(短果枝)に花芽をつけるため、樹形を整えるつもりで夏の終わりに枝を強く切り詰めると、咲くはずだった花芽ごと落としてしまうことがあります。躑躅(ツツジ、皐月=サツキを含む)はこれと逆の順序で、今年の花が終わった直後の数週間で来年の花芽が形成されるため、花後すぐに剪定を済ませ、その後はほとんど手を入れないのが原則です。柘榴(ザクロ)やブーゲンビリアのように、その年に伸びた新梢の先に花をつける樹種もあり、この場合は花が終わるまで新梢を切らないことが条件になります。すべての樹種に共通する単一のルールはありませんが、共通しているのは、剪定の判断と開花の判断がたいてい同じ季節に下されないという点です。時期のずれこそが、花物・実物盆栽でもっともつまずきやすい部分だと言えます。(出典 Bonsai Empire)
花芽と葉芽の見分け方
時期の判断をする前に、晩秋から冬の裸の枝を見て、どの芽を残すべきかを判別できる必要があります。花芽はふつう丸みがあり、はっきりとふくらみがあって、やわらかい産毛のような鱗片に包まれていることが多いのに対し、葉芽は同じ枝でも細く尖っていて、幹に対して平らに寄り添っています。園芸の専門情報でも、実をつける芽(果芽)は晩秋にかけて目に見えて膨らむ一方、葉芽(木芽)は小さく葉の付け根に目立たず収まったままだと説明されています。冬の裸木ではこの二つが混同されやすく、樹形を整えるための一回の剪定が、当人も気づかないまま一季節分の花を切り落としてしまうことがあるからこそ、見分けが重要になります。花物盆栽そのものの種類や育て方については、こちらの記事でより広く扱っています。初心者が見分けを学びやすい樹種もそこで紹介しています。(出典 Bonsai Empire、英国王立園芸協会)
肥料と日照は後付けではなく設計そのもの
葉物盆栽と同じ肥料の与え方をしていては、花物・実物として咲くことはまずありません。窒素分の多い肥料は枝葉の生育を優先させ花芽の形成を妨げるため、花物・実物の栽培者は花芽が分化する時期の数週間前から、窒素を控えリン酸とカリウムを多めにした肥料に切り替え、実際に花や実が育ち始めた段階でも強い窒素分は再び控えるのが一般的です。日照の重みも同じくらい大きく、とくに海棠は花芽を確実につけるために十分な日光と風通しが必要とされており、都合で半日陰に置いたままの木は、健康で青々としていても見るべきものがほとんどつかないままということが少なくありません。開花・結実の時期を通じて水切れさせないことも重要で、大事な時期に土を乾かしてしまうと花も実も落ちることがあります。これらは特殊な技術ではなく、花が咲く数ヶ月前から組み立てられている季節設計に近いものです。(出典 Bonsai Empire、Bonsai Empire カイドウ栽培ガイド)
それでも、答えが来年になることがある
時期も、芽の見分けも、肥料も正しく整えたとしても、花物・実物盆栽は求めに応じてすぐに咲くわけではありません。多くの樹種が一季節前にすでに花芽を決めているため、今年の春に犯した誤りは来年の春まで見えてこず、今日下した修正もまた来年まで姿を現しません。これは盆栽に限った欠点ではなく、長く生きる木が世話をする人に求める、ごく普通のことに近いものです。今年の作業が、育てている本人にはもう一巡先の季節にしか結果として見えない、ということがしばしばあります。日本の盆栽の実践では、この巡りが花物盆栽に限らず、剪定や針金かけ、植え替え全般のペースにも通底しており、木が刻む暦を人が学び直しながらついていく形になっています。Azukariで長期的に手入れを受けている樹については、いつ剪定したか、いつ花や実をつけたかという季節の記録が年をまたいで残されるため、良い開花の理由も、咲かなかった理由も、長く謎のままになることはありません。日本の花物盆栽の中でもっとも早く咲き、もっとも注意深く見守られる梅は、この同じ辛抱強さそのものを体現した木でもあります。
参考リンク
- Bonsai Empire「Flowering Bonsai trees」 — 剪定の時期、過度な剪定、窒素過多の肥料、日照不足など、花物・実物盆栽が咲かない・実らない原因と、躑躅・柘榴・海棠・山査子などの樹種別剪定ルール。
- Bonsai Empire「Care guide for the Apple and crabapple Bonsai tree (Malus)」 — 海棠が必要とする十分な日照、開花・結実期の水切れ対策、落葉後に花芽と葉芽を見分けてから行う剪定。
- 英国王立園芸協会(RHS)「Apples and pears: identifying fruit buds」 — ふくらみのある丸い果芽(花芽)と、細く尖った木芽(葉芽)の見た目の違い。