
葉を茂らせた欅(Zelkova serrata)。長年の剪定によって、細かく密に分かれた枝が作られている。2009年4月、米国ペンシルベニア州ロングウッド・ガーデンズにて撮影。Photo by Mark Pellegrini, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons — Source
五月の末から六月の末まで、一年のうち一か月あまり。この時期だけ、健康そのものの雑木にあえて鋏を入れ、葉の大半、あるいはすべてを落とすことができます。葉刈り(はがり)と呼ばれる作業です。三週間早く切れば、あるいは蓄えのない木に行えば、同じ一手がただ木を弱らせるだけで終わります。適期に、応えられるだけの力を持った木に行えば、ひと夏では届かないはずの細かさへ、木自身に枝を作り直させることができます。
葉刈りとは、健康な雑木の葉を初夏に切り落とし、より小さな二番芽を出させることで、木が自然に育つよりも密で細かい枝ぶりを作る技術です。
葉刈りは雑木の技であり、松には使わない
葉刈りの対象は雑木、つまり花や実ではなく樹形や葉を楽しむために育てる落葉樹です。モミジ、カエデ、欅、シデ、ブナなどがこれにあたります。松柏類には行いません。黒松や赤松は、代わりに芽切りという別の初夏の作業で整えられます。こちらは伸び出した新芽を切る技術で、制御しているのは葉の枚数ではなく針葉の長さです。両者は季節を同じくし、発想も近い。最初の芽吹きをあえて断ち、より締まった二度目を出させる。それでも入れ替えの利く技術ではなく、木がどんな葉をつけているかで、使う技が決まります。
実もの・花ものが対象から外れる理由は、これとはまた別です。全日本小品盆栽協会は、実なりや花を楽しむための木には葉刈りを行わないほうがよいとしています。葉をもう一度作り直す夏は、実や花芽を充実させるための樹液と光が、そのぶん減る夏でもあるからです。
適期は、春の葉が固まってから開く
時期は晩春から六月にかけて。その年最初の芽吹きが十分に伸び、葉が固くなって伸長が止まり、木が次の成長までのわずかな間で息をついた頃に、はじめて適期になります。春の葉がまだ柔らかいうちに切ったり、蓄えの足りない木に行ったりすれば、木に払えない負担を求めることになります。日本では、葉刈りの一か月ほど前に肥料を施すのが通例です。二番芽が引き出す体力を、あらかじめ持たせておくためです。
決まった量の蓄えを多くの芽で分けるから、葉は小さくなる
新しい芽は、切ってからおよそ一週間で動きはじめます。暖かさが続けば、一か月ほどで二度目の葉がひととおり揃います。これが二番芽です。二番芽の葉は、ほぼ例外なく、落とした葉より小さく、木全体で大きさが揃います。
理由は単純です。木が一年のうちに葉へ回せる蓄えの量は決まっていて、葉刈りはその蓄えを、木が本来一度に開くはずだった数より多くの芽へ分けさせます。同じ葉の総量をより多くの芽で分ければ、一枚あたりは小さくなります。
裸になった節ごとに、二本以上の芽が動く
この技術の値打ちは、二つ目の結果のほうにあります。放っておけば、木は伸長点から一本の枝を伸ばすだけです。葉刈りのあとの二番芽では、同じ節から二本、あるいはそれ以上の芽が開き、それぞれが独立した小枝になり得ます。英国の盆栽家グレアム・ポッターは、この仕組みをこう説明しています。取り除かれた葉は一枚の葉として戻るのではなく、何枚もの葉を持つ新しい枝として戻ってくる。だから枝先の数が増えていく、と。
これを数年繰り返せば、分岐点の間隔は着実に詰まり、その数も増えていきます。日本の盆栽が欅や楓で重んじる、細かく密に分かれた枝ぶりです。箒作りという樹形も、葉を落としたあとの冬の枝ぶりも、この密度に支えられています。ポッターは、うまく運べば二年分の枝作りがひと夏に収まるとまで書いています。正確な数値というより規模の目安として受け取るべき言い方ですが、日本と海外の作り手が同じような手応えを語っている点は押さえておいてよいと思います。
すべての樹種が全葉刈りに同じように応えるわけではありません。シデ、カシ、ブナは、一度にすべての葉を取り除かれると反応が鈍く、モミジや欅のような細かい二度目の芽吹きではなく、数の少ない大きな葉を返してくることが多い。こうした樹種には、部分葉刈りを使います。各枝の先端の葉を一枚だけ残し、それより後ろの葉をすべて落とす方法です。残した一枚が、Bonsai4Meの言う「樹液の引き手」として枝の長さいっぱいに樹液を通し続けます。木は裸になった節から新しい芽を出すので、すべての葉を一度に失う衝撃を避けながら、枝の密度を高めることができます。
その木が代償を払えるかは、三つの兆候でわかる
葉刈りは、成長期の真ん中で、もう一組分の葉をまるごと作れと木に求める作業です。すでに十分な樹勢を持った木でなければ、傷まずにこれに応えることはできません。ポッターが挙げる見分け方は、そのまま借りられるくらい具体的です。秋の遅くまで、傷みのない葉を保っていること。葉がついている間、毎日目に見えて鉢から水を吸い上げていること。そして、こちらが促さなくても自分から胴吹き芽を出していること。三つのうち一つでも欠けるなら、その木の今年は見送りです。ポッターはさらに、少なくとも三段階の枝分かれができていることを条件に加えています。それ未満では、新しく増えた密度の付き所がないからです。
そのうえで、日本と海外の情報源がほぼ同じ言葉で挙げる除外条件があります。植え替え直後や強い剪定の直後の木、病気や弱りの兆候が見える木、まだ骨格を作っている若木、そしてその年なんとなく疲れて見える木。二番芽を出す力のない木に無理を強いるより、その年は見送るほうが確実です。力の備わっていない木を刈れば、二番芽は薄くしか出ないか、まったく出ないまま、秋になっても枝が裸で残ります。
難しいのは、切ることではなく樹勢を読むこと
葉刈りは近道ではありません。通常の一年分の成長を差し出して、翌年のより細かい枝ぶりを買う技術であり、その代償に耐える余力を持った木にしか使えません。切る作業そのものは半日で終わります。この木が、この夏に、その代償を払えるかどうかを見極めること。そちらが、何年もかけて身につく側です。
そして、失われるのもその判断のほうです。結果は枝の形として木に残りますが、六月のはじめに作り手がその木の前に立ち、今年は見送ると決めた理由は、木のどこにも残りません。私は、その理由も木と同じだけ丁寧に残す価値があると考えています。私たちが預かる木につく季節ごとの記録は、そのために作られています。何をしたかだけでなく、何をしなかったか、そしてどんな根拠でそう判断したかまでを書き残す。預かっている老爺柿は、後者のよい例です。秋に実を持たせるための木であり、この技術は基本的に使わない側の木だからです。
参考リンク
- Bonsai Empire「葉刈りの過程」 — 多くの樹種で六月が適期であること、春の成長が落ち着き葉が固まってから行うこと、葉が小さくなり枝分かれが増える効果、植え替え・剪定・病気の直後の木と作り込み中の若木には行わないことについて。
- Bonsai4Me「Improving Ramification in Deciduous Bonsai Using Partial Defoliation」 — 先端の葉を残す「樹液の引き手(sap drawer)」の方法、シデ・カシ・ブナが全葉刈りに反応しにくい理由、取り除かれた葉が複数の葉を持つ新しい枝として戻る仕組みについて。
- Graham Potter Bonsai「Defoliation: What You Need to Know」 — 最初の芽吹きが固まり伸びが止まるまで待つこと、樹勢を測る三つの兆候と枝三段階の条件、葉を落としておよそ一週間での芽動き、「一夏で二年分」の効果について。
- 公益社団法人全日本小品盆栽協会「初夏の手入れ‐葉刈り 整枝」 — 葉刈りの目的と五月末〜六月末という適期、一か月前からの施肥、弱っている木はその年を避けること、実もの・花ものには行わないほうがよいことについて。