
ベンガルボダイジュ(Ficus benghalensis)の盆栽。高さ約70cm、1979年に種から育てられた木を鉢から抜いた直後の姿で、古い土をつけたままの根が見える。 / Photo by Tangopaso, public domain, via Wikimedia Commons — Source
上の写真のベンガルボダイジュは、1979年から育てられている木です。高さはおよそ70cm。地面に自由に根を張らせれば気根が広がり、街区ひとつ分の日陰をつくるほどにもなる樹種にしては、驚くほど小さな姿です。同じ小さな鉢の中で40年余り。それを支えているのは、数年おきに欠かさず繰り返される、たった一つの作業です。木を鉢から抜き、根を切り詰め、古い土を捨てる。
植え替えは、木を鉢に収め続けるための作業ではありません。鉢という限られた場所に閉じ込められた木を、それでも生かし続けるための技術です。
植え替えの周期を決めるのは、暦ではなく木そのもの
uekae(植え替え、文字どおりには「植え直す」の意)に、決まった年間サイクルはありません。若く勢いのある育成中の木は、新しい根が伸びるとすぐに鉢の中を埋めてしまうため、1〜2年に一度の植え替えが必要になることがあります。一方、すでに姿の整った成木、たとえば仕立ての完成した松であれば、間隔を空けて構いません。3〜5年に一度というのが目安です。一般に松柏類は雑木に比べて、根を触られることへの耐性が低いとされます。英国王立園芸協会(RHS)は、目安として2〜3年に一度を基本とし、成長の遅い松柏類は5年ほどまで間隔を空けてよく、成長の早い樹種は毎年手を入れる必要があるとしています。ただし、これらはあくまで目安にすぎません。作業する側が実際に見るのは、早春、芽が動き出す前に木を鉢から抜いてみて、根が鉢の中でびっしりと固まり、行き場を失っているかどうかです。それが確認できたときだけが、植え替えの合図になります。

まさにその確認のために鉢から抜かれた一本。根が鉢の形のまま固まり、新しい根が入っていける隙間がどこにも残っていない。 / Photo by ericskiff (Glitch010101), CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons — Source
切りすぎても、切らなすぎても、木は弱る
作業の内容そのものは地味です。しかし雑にやれば取り返しがつきません。割り箸のような道具を使い、細い根を傷めないよう気をつけながら、古い土を根鉢からほぐし落とします。鉢の縁まで伸びた長い根は、鋭い鋏で切り詰めます。ただし根の全部を切るわけではありません。一度に切ってよいのは根全体のおよそ3分の1までとされ、松であれば少なくとも半分の根を手つかずのまま残す必要があるといいます。根のまわりに棲む菌根菌――松の根が水分や養分を吸収するために頼っている、目に見えない共生相手――を守るためです。切りすぎれば、夏の暑さが来る前に木が立ち直れません。切らなすぎれば根が過密なままとなり、土の中の空気の通りが悪くなって、鉢の上の生育も止まってしまいます。

海岸松の根鉢の底の部分。細い根のあいだに白い菌糸が広がっている。松の根を触るとき、作り手がむやみに洗い落とさないよう気をつけるのが、この白い部分である。 / Photo by Tangopaso, public domain, via Wikimedia Commons — Source
土は木よりも先に寿命を迎える
地面に根を張る木であれば、土は自然と入れ替わり続けます。ミミズが耕し、雨が新しいミネラルを運び、根はまだ誰も触れていない土へと広がっていきます。盆栽にはそのどれもありません。鉢の中の土がすべてであり、しかもその土はいつまでも同じ状態を保ってはくれません。日本で植え替えによく使われる用土がakadama(赤玉土, "赤い粒状の土")です。関東地方、主に茨城県で採れる、粒状に焼き固められた火山性の粘土質の土壌です。新しい赤玉土は理にかなった働きをします。粒の中に水分を保ちながら、粒と粒のあいだには空気の通り道を残す。狭い鉢の中の根がまさに必要としているバランスです。ただし赤玉土は永久には持ちません。水やりを繰り返すうち、特に寒く湿った環境では粒が徐々に崩れて細かい粒子になり、それが目詰まりを起こして水はけを悪くし、やがて根の呼吸を妨げます。古びた土を新しいものに入れ替えることは、根を切り詰めることと同じくらい、植え替えの欠かせない一部です。

盆栽鉢の土の表面に見える赤玉土。乾いて白っぽくなった粒と、湿って色の濃い粒が混ざっている。粒と粒のあいだに見える隙間が、もう半分の仕事を担っている。水は粒の中へ、空気はその隙間へ。 / Photo by Abrahami, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons — Source
地面が本来ただで与えるものを、人の手で肩代わりするのが根の手入れ
放っておけば、鉢植えの木は根詰まりを起こします。限られた空間と、その中の養分を使い果たし、生育は止まり、やがて衰弱していきます。最初はゆっくりと、そしてある時から急激に。木の根は常にどこかで新しい土や養分を求め続けるものであり、動かせない鉢がそれをいつまでも与え続けることはできません。植え替えは、本来なら地面が無償で与えてくれるはずのものを、人の手で肩代わりする作業です。根を切り詰めることは、健康な木を弱らせるわけではありません。切った箇所からは新しい細根が芽吹き、実際に水分や養分を吸収する主な働きを担うのは、古く木質化した太い根ではなく、この細根の先端だからです。新しい土は、古く固まった土がもはや与えられなくなったものを取り戻します。根の整理と新しい土、この二つが揃って初めて、木は同じ小さな鉢の中で、一季節ではなく何十年、日本の古い盆栽であれば何百年という時間を生き続けられます。以前の記事では盆栽がなぜ長生きするのかについて書きましたが、欠かさず繰り返される植え替えも、その答えを静かに支えている、ごくありふれた技術の一つです。
目に見えない部分が、木のこれからを決める
盆栽の前に立つ人が目にするのは、幹であり、枝であり、土の上に広がる根張り(nebari)です。その下で働く根そのものも、それを形づくってきた幾度もの植え替えも、目には入りません。針金で幹を美しい線に整え、枝を刈り込んで見栄えのするシルエットを作っていても、その下で根が痩せた土の中で飢えていれば、地上部の衰えとして表れるのは事態がかなり進んでからです。逆もまた同じです。見た目は地味な若木でも、季節ごとに丁寧に根を更新されてきた木には、確かな年月がこの先も残されています。作り手が根の手入れを、見た目を整える作業ではなく木を支える根本の作業として扱うのはこのためです。春の植え替えの季節は、一年の暦のなかでもっとも重要な数週間だとされています。もし盆栽の良し悪しや、それを世話する人の腕を見極めたいなら、幹や枝から見るのは順番が違います。まず聞くべきは、最後に植え替えたのはいつか、そのとき鉢から何が出てきたか、です。
鉢の大きさは変わらない。変わるのはそれ以外のすべて
盆栽の根は、誰かに褒められるより先に切り詰められます。土は、完全にすり減ってしまう前に捨てられます。そのどちらも写真には写りませんし、盆栽園を初めて訪れた人の目に留まるものでもありません。それでも、その写真に写っている木がいまも生きているのは、この見えない仕事があるからです。
Azukariがこの部分をあえて記録に残すのは、ほかの誰も残さないからです。作家が預かった木を植え替えるとき――それは持ち主の都合ではなく、木自身の季節に合わせて行われます――何を切り、どんな土を入れ、なぜそうしたかが、その季節にオーナーへ届く記録の一部になります。写真では決して伝えられなかったはずの一行が、そこに加わります。
参考リンク
- 英国王立園芸協会(RHS)— Bonsai: Growing Miniature Trees — 植え替え・根切りの頻度(一般に2〜3年、成長の遅い松柏類は3〜5年、成長の早い樹種は毎年)と、時期・技法についての公式ガイダンス。
- Bonsai Empire — Repotting Bonsai — 植え替えの技法、根を切る量を全体の3割以内に抑える目安、松における菌根菌への配慮、植え替えを怠った場合に木が根詰まりを起こす理由。
- Wikipedia — Akadama — 植え替えに使われる火山性粘土質の用土「赤玉土」の成分、関東地方における産地、水はけと保水性のバランス、時間とともに崩れていく性質について。